キャンプ場のテントで一夜を過ごした    ヨーロッパ一人旅↑     ヒッチが難しい、じゃあ「フィンランド徒歩の旅」に変更するか?


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フィンランド編  


 No.9  市内、フィンランド航空のスチュアデスさんに話し掛けれ、自宅に招待される

No.10 ヘルシンキを出発、北へとヒッチハイクの旅が始まった

No.11 キャンプ場のテントで一夜を過ごした

No.12 フィンランド、ヒッチハイクの旅が曲がりなりにも続く

No.13 ヒッチハイクが難しい、じゃあ「フィンランド徒歩の旅」に変更するか?

No.14 フィンランドの民家、その庭にテントを張った所に一泊となる

No.15 Kärsämäki まで。日本の小旗を振りながらヒッチハイク

No.16 家の中にプールがある、フィンランドの民家で一泊招待される

No.17 フィンランド、ラップランド地方を更に北上 

ムーミン童話全集〈1〉/ムーミン谷の彗星 ムーミン童話全集 下村 隆一 (翻訳), トーベ・ヤンソン, Tove Jansson

 

No.12

はじめてだった、ヨーロッパ(フィンランド編)ひとり旅・滞在      


19xx年7月8日(月)うす曇    Viitsaari →  
 




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■ YHで朝の仮眠
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 高等学校の建物だったのだろうか、その入り口のドアの前、庇がほんの申し訳程度に出ていただけであったが、そのコンクリートの階段、一段、二段目の上、木製のドアを背にするかのようにして横たわり寝ていた。

 午前7時半、起床。

 と、雨が降り出してきた。濡れないようにと仕方なく、目の前のYH、入り口階段で雨宿りをすることに決め、移動。雨が降って来るのを突っ立ったまま天をぼけっと眺めていると、背中にしていたドアの鍵がガチャガチャと奏(かな)で始めた。誰かが出て来るものと気を利かしてそこから退いた。

 ドアが開いた。おばさんが顔を出す。

 「中にお入りなさい」

  ヒロに向かってフィンランド語でどうもそう言っているらしい。

 中に入った。ベッドのある部屋の通される。壁の時計を指し示めす。

 「10時まで寝てていいわよ」

 そういうことらしい。フィンランド語は全然理解出来ないが、そんな風に心が言っているように聞こえる。

 早速、お言葉に甘えてベッドの上に何も考えずにごろんとそのまま寝転がる。暫くすると、毛布を持ってきてくれる。昨晩は外で、寝ていたような寝ていなかったような、そんな睡眠状態にあったが、もう一度、正式に寝直しだ。


 午前10時、時間通りだ。言葉が通じない者同士なのだが、心が通じ合ったのか。おばさんがまた現れた。お湯を沸かしていたらしい。それを持って行きなさい、ということらしい。リュックからポリタンクを取り出して手渡した。おばさんは鍋から湯を注ぎ入れた。

 ドアの外に出た。再び、同じ階段の上に腰を降ろして、しばらくはそこに座っていた。まだ動きたくはない。出発したくはない。

 Hannaから貰ったチーズとハムの入ったサンドウィッチ二切れを食べた。朝食。このドアの後ろ、建物の中のどこかにいるおばさんの存在を感じながら、沸かして頂いたお湯、まだ熱過ぎるのをポリタンクの臭いと一緒に飲み、詰まりそうな喉を時々は洗い流す。

 ああ、Hanna! 
 忘れられないHanna!
 君が好きだ。







      二日前、小雨降る中、夕方になりつつある時間、ある村に歩いて来た。これ以上、国道に沿って先へ行こうとしても暗くなってきてしまうだろう。もう一日の行動をお終いにするしかない。国道から逸れて歩いて来た。

      教会の建物が見えた。今晩はこの村で一夜を明かそうと思った。教会の正面ドアを開けて中へ入って見た。ひんやりとした教会独特の臭いが鼻を撫ぜる。例の見慣れた、礼拝者用の長いすが整然と並んでいるのが見える。

      この教会の中、通路ででも寝れるかな? そんなことを思った。いや、寝かして貰おう、そう思った。

      ――本当にこの中で寝かしてもらえるものなのかな? 聞いて見なければならない。無断でこの中で寝てしまったら、問題になるだろう。一応、断ってからにしよう。





      この村の教会の牧師さんなのだろう。東洋の異国からやって来たこのヒロの訪問を歓迎してくれた。喜んでヒロを受け容れてくれた。夕食前にサウナに入ろう、と自宅の中にあるサウナ室に一緒に入って汗を流した。

      夕食前の歓談では古い、小型の、分厚い本を手に持っ      て見せてくれる。中国語で書かれたような小さな本を見せてくれる。聖書なのだろうか。ヒロは中国人ではない、日本人だよ。日本人でも読めるとでも思ったのかもしれないが、全然読めるような代物ではない。牧師さんも読めるから手元に持っているとは思われない。誰かに譲って貰ったのかも知れない。

      珍しいものを持っているということで見せてくれたのか、それとも同じ東洋からやってきた人に対する親近感からであろうか。



      女の子が一人いた。20歳前後か。色白、青い目。金      髪。透き通った美しさを醸し出している。娘さんなのか、それともこの牧師さんの家に居候しているのかは聞くのを忘れた。Hannaという名前。看護婦さんをやっている、と。彼女もヒロが日本からやって来たということに関心を示し、彼女の部屋にヒロは案内された。

      彼女の部屋にも東洋に思いを寄せることの出来るものが飾ってあった。扇子であった。日本の扇子であった。どのようにして入手したのかは聞かなかったが、それをヒロに手に取って見せながら、満足そうであった。
      同じ共通項を見い出したようであった。

      ヒロと彼女とは床に腰を降ろして、向かい合って語り合っていた。心は刺激的であった。話の種も尽きてしまったということでか、いつしか二人とも沈黙がちとなってしまった。
  
      日本からのやって来たその男は、突然、何を急に思い立ったのか、その思いの全てを彼女の方に浴びせかける様に体ごと飛び掛かるのであった。

    「Hanna、ヒロは君が好きだ! 好きだ、好きだ、好きだ!」
     
      予想もしていなかったことだろう、突然の豹変振りで彼女はびっくりしながらもその男から身を解こうと、身を引こうと、身を守ろうと必死に抵抗する。

      「駄目、駄目よ、駄目よってば!」

       力強く、飽くまでも断固否定する彼女。
       
      「君がどうしても好きなんだ。好きだ、好きだ」

      「赤ちゃんが出来たら困るから・・・・」
     
      それを耳にしてその男は彼女から離れた。我に返った。      何が起こっってしまったのか。変なことを仕出かしてしまったと自責の念に駆られ始めていた。





      「もうそろそろ寝る時間ね。用意して上げますからちょ
       っと待っていて下さい」

       彼女はヒロにそう言い残して部屋から出て行った。


      教会専用の集会室になっているのだろうか、そんな広い空間の床に分厚いマットレスを一枚敷いて、枕、毛布も用意して、ヒロのためのベッドを俄かに作ってくれた。

      牧師さんに、彼女にお礼を言ってヒロは宛がわれたベ
      ッドの上に興奮冷めやらない身を横たえた。



      
      翌朝、牧師さん、そして背後にHannaも隠れるか
      のようにしながらも姿を現し、昨晩は何も起こらなか
      ったのごとく、お互いに朝の挨拶を交わした後、朝食
      を一緒に取り、お礼を述べたヒロはまた一人で出発す
      ることにした。

      Hannaはヒロのために作って呉れたサンドイッチ
      を直接手渡してくれた。

      「キートス、どうもありがとう」とヒロの笑顔。

      「Gute Reise! 良い旅を!」と彼女の笑顔。  

       握手を交わした。

      フィンランドの旅を続けて行くのであった。
       







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■ 道路脇で伸びてしまった
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 YHの入口前、まだ小雨が降っていた。が、それも漸く止み始め
た。次第に晴れて来た。さあ、出発だ。

 午前10時40分、腰を上げ、そのYHのドアから離れた。今日
も歩いて出掛けなければならない。


 国道沿いに姿を現した後はいつもの通りに旅を続けるのだ。車を
ヒッチして乗せて貰って旅を続けるという従来の考えからサヨラナ
をしてしまった訳ではない。とぼとぼと沿道を歩き続けているが、
遅かれ早かれ、車を止めて前進して行けるものだと思っている。

 車の気配を感じると立ち止まっては、後ろに目がないので、背中
の荷物の存在を重たく感じながらも後ろを振り返り、やって来る車
に向かって右手を挙げ、親指を立てて例の合図を送る。

 「歩行者のヒロが、ここにいますよ、気をつけて通過して行って
下さい」という合図ではない。手を振ってヒロの存在を明らかにし
ているのだが、通過して行く車に向かって見送りの役を演じている
訳ではない。「ヒロは車に乗りたい、乗せて行ってください」とい
う合図なのだ。


 車は来る。車は来るが、そしてヒロも車が来るかとくるりと振り
向くが、車は皆、申し合わせたかのように、何の躊躇もなく通過し
て行ってしまう。ヒロも言ってしまう。「いってらっしゃ〜い!」

 いや、そうじゃない、間違えた。「行ってしまわないで!」と、
心の中では叫んでいる。

 キャンピングカーやら車の屋根に荷を載せた車がヘッドライトを
点けて走って行く。

「行ってしまわないで!」 

「ヒロを載せて行って! いや、乗せて行って!」


 歩いていると言おうか、歩かされていると言おうか、乗せて行っ
て貰いたいのだが、そんな気持ちも放棄しなければならないようだ。
しかし諦めきれない。

  ああ、諦めきれない。

  ああ、忘れられないHanna!

  今、どうしているだろう。





 歩き続けているうちに本格的に晴れてきた。少々、暑さを感じる。
その所為か、今となっては熱湯から普通の水となった、その水ばか
り飲んでいる。飲めば、汗となって出てくる。

 歩いて、疲れて、休みたい。だから休んだ。そして、また歩き始
める。ちょっと歩き続ける。と、また休みたい。だから休む。そん
な繰り返し。

 沿道、細長い大型の牛乳缶集配屋台があった。通り掛った序だ、
ちょうど良い、とそこに自分の背の荷物を担いだまま身を預けるよ
うにして一時その上に置かして貰った。両肩、背の負担を軽減させ
る。そうすることで歩きを中断する。

 勿論、牛乳缶のように集配して貰いたいからではなかなったが、
――いや、そうとも言えるかも知れない、乗せて行って貰いたいの
だから、また道路脇の地べたに直に長く延びたりして疲れた全身に
休息を与えたりしていた。地べたに直に横たわるなどいうことはい
わば都会に住んでいた者――ヒロのことであるが――にとっては想
像も出来ないことではあったが、こうして環境が変ると、そんな固
定観念も何処吹く風といったふうに、簡単に吹き飛んで行ってしま
ったことに気づく。

 変に格好つけることもないのだ、疲れているから自ずと体が水平
になることを主張するものだから、なるがままにまかせるのだ。歩
くことがすなわち背中が痛く感じられることであった。難儀であっ
た。

 沿道の雑草を敷き布団するかの如く伸び切っていた。フィンラン
ドの空が仰がれる。

 何とかならぬものか ――つまり、車は止まらないものなのか。
俺は疲れているんだよ、分からんのかなあ、疲れてしまっているん
だよ。乗せてってくれんかなあ。

 一時的に、フィンランド人に対してネガティブな思いを抱こうと
している自分のようであった。とにかく一台も、一台さえも止まら
ないのだ
から。

 その道路脇で寝転がっているもいないもそれはヒロの自由という
ものだろう。ところがクラクションをわざわざ鳴らして疾走してゆ
く車まで現れた。止まった車が現れた、ということならば何ら文句
を言うこともないのだが、こっちとらはゆっくりと何も考えずに静
かに休息を取っている最中なのに、故意にやかましく側を通過して
行く。もっと静かに通過出来ないものなのか。

――運転者は何を考えているのか。面白がっているのか。いたずら
をしてやれ、ということなのか。起き上がれ! 歩け歩け! とい
う合図をこのヒロに送っているのか。






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■ 喉が干上がってしまった
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 歩き続けていた、そしてたびたび口に当ててはごくごくと喉を鳴
らしていたので、終に手元の携帯ポリタンクに入った飲料水は全部、
全部飲み切ってしまった。空となり軽くなった。軽くなったのは良
いのだが、喉の乾きは軽くならない。


 ああ、水が飲みたい。堪らない。水が飲みたい! 

 水! 水! 水が飲みたい! 

 もう、車なんてどうでもよい。

 水だ、水。水が飲みたい!

 そう思いながら歩き続ける。


 歩き続けている。何処で見ず水が得られようか? 民家に行って
水を貰わなければ・・・・・そう思っている。

 道路を歩いていると近くに民家が今は一軒二軒とぽつんぽつんと
見えるのだが、そこへ近づいて行くのにちょっと勇気がいる。そう
感じている。見知らぬ、見られぬ黄色い顔をした外人がこんな所に
現れた! ということで恐れられるのではなかろうか。ちょっと気
後れがする。


 ああ、水が飲みたい! 
  
 とうとう決意して、ある民家へととぼとぼとやって来てみたが、
誰もいないらしく、もっと近くによって窓の中を覗こうとしたが、
確かに留守のようでヒロがやって来ているという気配は感じ取られ
なかったようだ。

 ほっとしたような、仕方ないような、他の民家で頼んでみようと
思い直して、そのまま歩き続ける。飲まなければ歩けず、死んでし
まうという状態ではないから諦めることが出来るのだ。いや、それ
だけではない。若干、現地の言葉で通じさせなければならないとい
うことも実は気懸かりなのだ。



 漸くもう一つ別の民家へと水を貰いに行った。

 「Hyvaeae Paivaeae. ヒューヴァパイヴァ、こんにちは!」
  家の人が出て来た。

 手元の旅行者用携帯辞書の中にある例文一つを我流に読んでみた。

 「どうぞ、お水を下さい」
  そう言った後、そのおばさんの表情を眺めた。

 おお、通じた! 

 コップ一杯のお水が運ばれて来た。

 手渡されるや否や、一杯目はガブガブと一気に飲んだ。そしてポ
リタンクに一杯、詰めさせて貰った。

 Kiitos、Kiitos.

 キートス、キートス。どうも、どうも。

 また、新たな力を得たかのように歩き始める。



 歩き続ける。

 雨がまたぱらぱらと降り出す。降り出したからといって、傘を持
っているわけでもなし、レインコートを持っているわけでもなし、
回りを見回しても隠れることも雨宿りをすることも出来ず、そのま
ま濡れるまま、すんずんと歩いていく。

 歩き疲れていた。もう夕方になりつつあった。



 夕闇が訪れようとする中、畑の中に遥かぽつんと見出された納屋
のような小屋で寝ることに決めた。

 沿道から離れ、畑の上をのっしのっしと横切って小屋にやってき
た。誰も居ないことを確かめた。

 午後7時。手荷物をしたためたところ、種痘証明書が消えていた。
紛失らしい。どうしたことだろう。全然記憶にない。




                       
 

 

 

 

 キャンプ場のテントで一夜を    ヨーロッパ一人旅↑     ヒッチハイクが難しい、じゃあ「フィンランド徒歩の旅」に変更するか?